スク市

市場の古本屋 ウララ

2013年03月17日 16:05

 奇数月の第3土曜日、沖縄タイムスの読書面に「本との話」という連載を持たせてもらっています。(偶数月はちはや書房の櫻井さんです。)たぶん10回目だった昨日は、2月に東京古書会館の中央市会大市に参加した話を書きました。

 市会とは、古書組合に加盟する古書店が本を入札しあう業者の市です。そんな業界の話題を新聞に書こうとは思っていなかったのですが、大先輩たるBOOKSじのんの天久さんに「大市の話を一般の方向けに書いてみて欲しい」と言われ、私もつねにネタ切れなので、従ってみることにしました。

 昨日の昼まえ、隣の洋服屋さんが来たのであいさつをすると、
「今朝、新聞ひらいて〈おはよう〉って言ってきたよ」
と微笑まれました。
「読んでくださったんですね」
「東京でがんばってたのねえ、雪が降ったとか、そんな話しか知らなかったけど」
「そうなんです」
 隣の店の人にも見えない部分を伝えられたのなら、書いてよかったと思いました。

 今日は隣の漬物屋さんがわざわざ店に入ってきました。
「東京、大変だったんだね」
 新聞はいつもその日の夜に読む人です。
「市っていうから、買うだけかと思っていたけど、入札するのね。入札は大変よ。買えたの?」
「すこしだけ」
「わたしも昔は朝3時、4時ごろから泊に行って、スクのセリをしたよ」
「スクですか」
「沖縄じゅうから、宮古からも八重山からも売りに来ていたよ」
「毎日?」
「ちがうさ、時期があるのに。旧の6月だから、7月くらいね」
「1年分買うんですね。どれくらい?」
「200キロくらいだったね」
「いつごろの話ですか」
「10年以上前ね」
「そのころはスクガラスの業者も多かったんでしょう」
「そう。買えなければ玉城の奥武に行くこともあった(〈おくたけ〉といわれたので何回か聞き返した。〈おう〉でもどっちでもいいみたい)。この辺は老人が多かったから、車で待たせて、かわりに買ってあげたりもしたよ」
 ウララの前の前の人は、95歳までここでスクガラス屋をやっていたと聞いています。
「あと、瓶は軍から買っていたから、宜野湾の嘉数か、牧港まで買いに行って。ベビーフードの瓶とかね」
 泊で買ったスクを嘉数で買った瓶に箸で1匹ずつ詰めて、牧志の浦崎漬物店のスクガラスはできあがっていたのです。
「スクはもうほとんど捕れなくなったから、セリにも出ないさ。今はフィリピン産だよ。みんな埋め立てられて、道から海が見えなくなった」



 大市は業界内の内向きな話題だと思いこんでいたのに、商売人には共通する体験だということに初めて気がつきました。本の話よりも商売の話がもっと書けたら、反響ももっと大きくなるのでしょう。那覇女の商売について、いろいろな人から話を聞いてみたいです。

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